世界と日本、生産者と消費者を“野菜でつなぐ”コーディネーターとして、株式会社HIBIKIを設立してから丸2年。野菜や果物の輸出入業・卸売・販売を生業とするからこそ、この国の“食文化のいま”、“食生活のいま”が手に取るように分かります。

今回は、弊社Webサイトの制作・管理をお願いしている株式会社AND SPACE様ご協力のもと、近年低下傾向にある「日本の食料自給率」、社会的課題となっている「食品ロス問題」をテーマとする「記念対談:前編」をお届けします。

 

◆ 出演 ◆

スピーカー / 株式会社HIBIKI  代表 小山博司

聞き手   / 株式会社AND SPACE コピーライター 橋田耕介

 

日本の直近の食料自給率は37%

橋田  日本の食料自給率の移り変わりを見てみますと、カロリーベースで昭和40年に73%あったものが、平成30年には37%まで下落してきています。

同じ年の数値を比較すると、アメリカは130%、フランスは127%、ドイツは95%、イギリスは63%。先進国では“最低水準”とまで言われていますが、どのような背景があるのでしょうか?

 

小山  まず、食料自給率の計算方法には、カロリーベース・生産額ベース・重量ベースの3種類があります。どのデータを引っ張っり、どう捉えるかによって見方はおのずと変わってきますから、ここでは「なぜ低いのか?」に対する答えを早々に出すのは避けましょう。

なぜなら、他国に比べて日本の食料自給率が低い理由には、地理的な事情があるからです。

 

橋田  小さな島国の日本は、食料自給率をはじき出す上で、そもそも不利な条件が重なっているというご指摘でしょうか?

 

小山  まさにそうです。アメリカの場合、アメリカは人口3億人、国土9万8千ha、その内の4万800haが農地として使われています。

次に、カロリーベースや生産額ベースでトップのカナダは、人口3500万人、国土はアメリカとほぼ同じ約10万haで、農地は6万haもあるんです。

それに比べて日本は、人口が約1億3千万人、国土が3780haで、農地は455haしかありません。

 

橋田  農地の割合が極端に少ないと言えますね。ざっくり計算してみると、アメリカが約40%、カナダが約60%で、日本は12%程度なんですね…。

 

小山  農地割合から見ても、食料自給率を高めるには地理的条件の面で難しさがあります。

それに加えて、昨今の農業離れなどもありますから、食料自給率は下がってしかるべきと言えるのではないでしょうか。

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/012.html)

日本の食料自給率は他国と比べて不利な条件!?

橋田  日本の食料自給率は、下がらざるを得ない環境や物理的な条件がある訳ですね。

パーセンテージだけでなく、農業に適した農地の割合と、食料をまかなわなければならない国民の人口比率までを考えると、他国に太刀打ちしようなんて、夢のまた夢な気さえします。

 

小山  特にカロリーベースの食料自給率の場合、カロリー(熱量)が高い食品と言えば、肉や穀物になりますよね。

日本は、小麦や大豆など主要な穀類の調達を、ほとんど輸入に頼っています。また、肉や豚を育てるための飼料も輸入頼みになっている状況ですから、カロリーベースでの計算は特に下落傾向になってしまいます。

 

橋田  カロリーベース以外に、生産額ベースなどで見るとどうでしょうか?

 

小山  生産額ベースですと、昭和40年が86%で、直近のデータは67%です。

数値は落ちてはきていますが、減少率の面では、カロリーベースと比べてそこまで悪くはありません。

食料自給率の問題を話題にすると、どのデータを見るかで大きく変わりますし、ツッコミどころが満載だったりしますよね。

政府が発表した食料自給率の目標値

橋田  政府(農林水産省)は日本の食料自給率について、5年後の令和7年度(2025年)には、カロリーベースで45%、生産額ベースで73%を目標設定していますね。

 

小山  はい。ただ、その目標値の変遷をたどってみると、2008年に50%を目指しましょうと言い、達成できずに2015年の時点で45%に下方修正した過去があります。

そして今、改めて5年後に45%を目指しましょうと発表しただけに過ぎません。

 

橋田  これからの日本の人口動態だけを考えると、少子高齢化がさらに進んで、人口そのものが減っていくと予想されています。

人口が減っても農地の割合が変わらず、農作物の生産量も変わらなければ、自ずと食料自給率は上がると言えるのではないでしょうか?

見方を変えれば、昔は人口が少なかったからこそ、食料自給率が高かったと言えるのではないかと。

 

小山  もちろん、その見方は正解です。あとは、日本人の食の変化も影響しているでしょう。米を中心に、魚や大豆などを食べる日本食文化が再び色濃くなれば、食料自給率は上向きに改善されていくと思います。

ただ現状は、どちらかと言えば逆の方向に進んでいますね。

 

海外に依存せざるを得ない小麦や大豆

小山  かつてのように、お米中心の食事、肉ではなく魚を中心とした食事、野菜を中心とする食文化に変わっていけば、日本の食料自給率は大きく変わっていくでしょうね。

ただ、実際には、お米の消費量は減り気味です。しかも、今の日本人がよく食べているものの内、小麦や大豆はほとんどが海外からの輸入に頼っていますから。

 

橋田  確かに最近は、小麦を使ったパンや麺の消費量が伸びてきています。食文化も時代とともに移り変わりますし、仕方ないのかもしれませんが。

とは言え、お米を中心とした食事を取り戻して、国レベルでの「地産地消」が加速していけば、政府が目指す食料自給率の数値まで引き上げられるかもしれませんね。

 

小山  大豆も小麦も、日本で作れないことはありません。

ただ、広大な国土の中の広大な農地で、大型機械を導入しているアメリカ・カナダ・オーストラリアなどで作る小麦や大豆とでは、圧倒的な価格差ができてしまいます。

純国産にこだわる趣も一部でありますが、現在の日本の環境や状況では、“安いにこしたことはない”となることがほとんどです。

諸外国に太刀打ちできない日本の農地事情

橋田  まわりを海に囲まれて、森林面積の占める割合が多い日本では、そもそも農地に適した土地が少ないですから、諸外国と同じような生産体制を築くことは不可能に等しい。

北海道の写真なんかを見ていますと、だだっ広い農地を思い出すことはありますが、他の農業大国に太刀打ちできるほどのものではないですよね。

 

小山  どんなメーカーも、「安い原料を使う」というキーワードはどうしても外れません。

これは農作物に限ったことではなくて、「できるだけ安く仕入れたい」と、誰でも考えますからね。

 

橋田  特にビジネスにおいて原価率は重要ですから、全国にある外食・中食産業の企業では、安価な輸入に頼らざるをえないのは必然であって、仕方のないことですよね。

 

低い食料自給率の一方で叫ばれる「食品ロス問題」

橋田  食料自給率が年々低下している問題の一方で、巷では「食品ロス」の問題も取り沙汰され始めています。

エコが叫ばれる時代に、食品ロス問題はまさに、「もったいない」の精神にも通じる日本らしい動きだと思いますが。

 

小山  節分の恵方巻やクリスマスケーキの廃棄がニュースで話題になったことで、一般の人たちも食品ロスに注目し始めていますね。

食べ物がムダになってしまう「食品ロス」が発生する場所を考えてみると、販売現場・生産現場・家庭の3つが挙げられます。

販売現場は、スーパー、百貨店、レストランなどです。お惣菜の残りや食べ残しが大量に廃棄されています。また、生産現場は、農場やカット野菜工場のこと。形がイマイチな野菜や、豊作の時は収穫量が多すぎるからとの理由で、わざと廃棄されることもあるんです。

 

橋田  食品ロス問題を取り上げる際には、私たち生活者・消費者には見えていない、手の届かない場所で、多くの食品が廃棄されていることを忘れてはいけないのですね。

 

小山  買ってきた食材を食べきれなかったり、冷蔵庫のなかで腐ったりしてしまったり、各家庭の中でも食品ロスは確かにあります。ですが、その量は微々たるものです。

ここ最近、「食品ロス問題」が広く叫ばれてはいますが、解決に向けた動きも出てきていることをご存知ですか?

 

橋田  目にする機会、耳にする機会がほとんどない印象ですが、飲食チェーンやスーパーマーケットチェーンなどで、社会的な取り組みが始まっているんですか?

“見込み”で作った調理品をムダにしない取り組み

小山  そもそも、貴重な農作物を使った食料品をなぜ作りすぎてしまうのか。

これには、食料品を扱う各メーカーやスーパーなどで、事前に把握しきれない発注量に「間に合わせるため」というビジネス的側面があります。

“見込み”で作るから、結果的に余ってしまうというサイクルがあるんです。

 

橋田  製造する側としては、足りないよりも多いにこしたことはないですから。

見込みで作らざるを得ない企業側の姿勢は、簡単に変えようがないですよね。

 

小山  それは仕方ないと思います。ですが、作りすぎた調理品をムダにしないために、余った惣菜などを無料や安価でスタッフに持ち帰ってもらう取り組みを積極的に行っている実例もあります。

このような、食品ロスを減らそうという地道な取り組みは、まだ一部ではありますが、徐々に増えてくるのではないでしょうか。

 

橋田  そのような素晴らしい取り組みは、各企業のホームページでCSRの取り組みとして紹介されているのかもしれませんが、大きくニュースなどでとり上げられることはほとんどないですよね。

食品ロスという社会的な課題に真摯に取り組む企業の活動が、もっと表に出てくれば、国民一人ひとりが意識を向けるきっかけになるのではないかと思います。

世界の食品ロス対策にみる“未来へのヒント”

小山  海外に目を向けると、食品ロスの問題に取り組む国はいくつもあります。

フランスでは、2016年に「食品廃棄禁止法」ができました。各家庭でニワトリを飼い、毎日の食事でロスになりそうな野菜をエサとして食べさせて、卵を生ませて使うという動きです。

また、スペインでは「シェアリングエコノミー」という取り組みがあります。地域ごとに独自の冷蔵庫を設置して、近隣住民が家庭で不要になりそうな食材を持っていく。この冷蔵庫に入っている食材は、その地域の共有物として、誰が持っていってもいいと決められているんです。

 

橋田  フランスの場合は家庭単位、スペインの場合は地域単位での取り組みなんですね。

最近の日本では希薄になりつつある「地域コミュニティ」を生かした活動は、とても魅力的に思います。

日本国内でも同じような取り組みはないんでしょうか?

 

小山  少し趣は異なりますが、滋賀県高島市の「針江」という地域には、集落全体に「カバタ(川端)」と呼ばれる水路が走っています。

各家庭の中へ水路が引き込まれており、食事後の食器洗いに使われたり、天然の冷蔵庫として野菜類を冷やしていたり、水路を泳ぐ魚に余った食材を食べさせたりしているんです。

比良山系から流れ込む雪解け水が豊富な地域の伝統ではありますが、昔から続く、地域全体を巻き込んだ「循環型エコノミーシステム」の代表例でしょう。

 

橋田  「自然を生かす」という観点は、とても魅力的ですね。ただ、正直、針江地域の例のような土地柄を最大限に活かした伝統的な取り組みを新たに始めることは難しいかもしれません。

それでも、フランスやスペインの取り組みを参考にした、地域独自の食品ロス対策に乗り出す自治体が増えることで、日本人の意識改革は徐々にでも進んでいくかもしれません。

 

小山  食品ロス問題が社会全体に認知され始めていますので、これからどんどんと企業や地域での取り組みは増えてくるのではないかと期待しています。

 

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